次に観る歌舞伎はこれだ! 10月新橋演舞場・市川猿之助『ワンピース』

この秋の話題作と言えば、人気漫画『ワンピース』を歌舞伎化して新橋演舞場で市川猿之助が上演する舞台でしょう。初演にも関わらず、二ヵ月連続での上演、というところにも猿之助の並々ならぬ意気込みが感じられます。

どんな名作、古典でも、初演当時は「新作」でした。それが歌舞伎400年の歴史の中で洗い上げあれ、淘汰され、現在は古典芸能として残っています。そういう視点から見れば、今までにも他の役者が試みて来た舞台同様に、新しい挑戦の一つとして歓迎すべきことではあります。

ただ、全く問題がないわけではありません。今回は、歌舞伎化する作品が人気漫画であるだけに、原作を知り、読み手としてのイメージを持っている観客が大勢います。一方で、従来の歌舞伎ファンの中には『ワンピース』という名前さえ聞いたことのない方々も多いでしょう。

どんな舞台でも、100%すべての観客が満足することはありませんが、この両極端な広がりを持つ観客をどこまで満足させられるか、その最大公約数を探すことがまずは重要でしょう。この舞台の脚本は、劇作家の横内謙介が担当します。劇団「扉座」の代表でもあり、今までに多くの素敵な作品を書いて来たベテランの劇作家が、この素材をどう調理するか、腕の見せ所でしょう。

まだ幕が開いていないので想像でしか物を言えませんが、恐らくは「誰が観ても楽しめる冒険活劇」のようなスペクタクルに富んだ舞台になるのではないでしょうか。ここまではある程度の予想範囲ですが、歌舞伎全体から眺めると、他の問題も見えて来ます。

最近、スペクタクルに富んだ新作や復活の上演などが主に若手の主演で増えています。若い観客動員のためには良いことですが、一方で従来からの古典作品をどうするか、という問題も重要です。今の観客のペースでは明らかに長い、あるいは理解しにくい、と思われながらも、名作としての歴史を持つ作品はたくさんあります。それらをどういう「眼」で見るか、ということです。

長いから無闇にカットすれば良い、というものではありません。科白一つにしても、現代の観客に判りやすいように言い換えるべきかどうかは、重要な問題です。人気のある演目だけを繰り返し上演していては、歌舞伎のレパートリーはどんどん狭まります。その中で、それぞれの作品を確かな眼で見直し、現代の観客に合うようにどこをどう直すのか、あるいは直さないのか。「テキストレジー」と言いますが、今のタイミングで、少なくも向こう50年は通用するようなテキストレジーを必要とする作品も多いでしょう。

これは大変な難事業です。一本の歌舞伎を、キチンと見直そうとすれば半年や一年はかかる仕事です。現行上演可能、と言われているだけで300本、と言われる作品すべて、とまでは言いませんが、これらにどういう眼で対峙するのか。シェイクスピアの作品は、同じ物でも何回訳し直されたかわかりません。しかし、歌舞伎は、今までにほとんどそうした経験を経ていません。

この『ワンピース』の上演が、今後の歌舞伎の方向性を考える上で、こうした重要な問題を抱えているのだ、ということも、改めて申し上げておきましょう。これは、未来の観客のための仕事なのです。


発表された配役

市川猿之助/ルフィ、ハンコック、シャンクス
市川右近/白ひげ
坂東巳之助/ゾロ、ボン・クレー、スクアード
中村隼人/サンジ、イナズマ
市川春猿/ナミ、サンダーソニア
市川弘太郎/はっちゃん、戦桃丸
市川寿猿/アバロ・ピサロ
市川笑三郎/ニョン婆
市川猿弥/ジンベエ、黒ひげ(ティーチ)
市川笑也/ニコ・ロビン、マリーゴールド
市川男女蔵/マゼラン
市川門之助/つる

福士誠治/エース
嘉島典俊/ブルック、赤犬サカズキ
浅野和之/レイリー、イワンコフ、センゴク

10月分のチケット発売は、8月20日(木)より発売
11月分のチケット発売は、9月20日(日)10:00より発売

スーパー歌舞伎Ⅱ ワンピース 特設サイト


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祝! 四代目市川猿之助襲名記念 僕は、亀治郎でした。
単行本(ソフトカバー) – 2012/8/3


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