歌舞伎座・六月大歌舞伎の見所紹介!「最強の布陣」で臨む大舞台!

時代物の大作『新薄雪物語』が、ふだんは滅多に上演されない「正宗内」までを通して上演する、という貴重な舞台です。しかも、主な役に幸四郎、仁左衛門、魁春、吉右衛門、菊五郎のベテランたちが適役を演じるという豪華版。

他にも、時蔵、錦之助、橋之助、芝雀、又五郎、歌六な、腕に覚えのメンバーが脇を固め、現在では「最強の布陣」で臨む大舞台、と言ってもよいでしょう。

この『新薄雪物語』は、権謀術数が絡み合う上に、子供同士の愛を成就させるために、親が命を落とす、という「義理」に縛られた武士の世界の物語です。

明るく豪華な舞台の「花見」から始まり、昼夜をまたいでの通し上演になりますが、一部で収まらないのが何とも惜しい限り。「花見」から「合腹」まで、休憩の時間にもよりますが、概ね4時間10分~20分。これに、「正宗内」を超えると、どうしても5時間を超える舞台になります。

今から30年以上前には、5時間を超える舞台もたまにはありましたが、今は昼の部でも夜の部でも「5時間超え」は観客にも役者にも多大な肉体的負担がかかります。そこで、昼夜に分ける、という苦肉の策を取ったのでしょう。

まして、「義太夫」を使った荘重な時代物の名作。いくら世の中のスピードが加速しているとは言え、むやみにテンポアップやカットをすれば良い、というものではありません。一ヶ月の公演のうち、数日は「12時開演、夕方までかけて『新薄雪物語』だけを通して上演する日」を作る、という考え方もありますが、観客も役者も混乱する恐れがあり、一気に通して観る、というのはそれ相応の体力が必要です。

とは言え、空前絶後になるかもしれない大顔合わせの舞台は見逃したくないし…。皆さん、くれぐれも昼と夜の順番を間違えないように観劇の計画を立ててくださいね。

この『新薄雪物語』は、歌舞伎を見慣れた方向けの演目ですが、多少人物関係が複雑なものの、初心者にはそれなりの豪華な役者の顔ぶれや衣装、舞台装置などの楽しみ方もあります。たまには、こういうどっしりした歌舞伎に浸って見るのも悪くはないでしょう。

よく初心者向けの講座でお話をするのですが、「歌舞伎をわかろうとすると難しくなり」ます。最初は、「感じれば」よいのだ、と思います。「綺麗だな」「話が難しくてよく判らないな」「あの役者がカッコいいな」…。結局は、どんな見方をしても、「正解」はありませんし、それを求める必要もありません。

いきなり全部を判ろうとせずに、歌舞伎の大作の世界観に浸るもよし、ご贔屓の役者の芝居に注目するもよし、豪華な顔ぶれに圧倒されるもよし。たまには一日、古典芸能の世界に溺れてみるのもいいかもしれませんよ。

昼の部の『天保遊侠録』(てんぽうゆうきょうろく)、夜の部の『夕顔棚』は、コース料理で言えば「前菜」と「デザート」と考えてもよいでしょう。ただ、顔ぶれをみると、どちらも上質の味わいを見せてくれそうです。前者は力強い勢い、後者は軽やかな味わい。

六月の歌舞伎座は、私も「がっぷり四つ」に組む構えで、歌舞伎座の玄関をくぐるつもりですが、これは「批評家」としての話です。皆さんは、お気軽に。


会場:歌舞伎座 (東京都)
平成27年6月1日(月)~25日(木)


昼の部
一、天保遊俠録(てんぽうゆうきょうろく)
二、新薄雪物語(しんうすゆきものがたり)花見/詮議

[出演]中村橋之助 / 中村芝雀 / 中村魁春 / 尾上菊五郎 / 片岡仁左衛門 / 中村時蔵 / 中村吉右衛門 / 松本幸四郎 / 坂東彦三郎

夜の部
一、新薄雪物語(しんうすゆきものがたり)広間・合腹/正宗内
二、夕顔棚(ゆうがおだな)

[出演]片岡仁左衛門 / 中村魁春 / 中村又五郎 / 中村芝雀 / 松本幸四郎 / 中村吉右衛門 / 中村橋之助 / 中村歌六 / 尾上菊五郎 / 市川左團次