夏休みには歌舞伎座へ!真夏の風物詩『八月納涼歌舞伎』の見所紹介!

八月は、年に一回の三部制の歌舞伎公演が歌舞伎座で行われます。これは、亡くなった中村勘三郎や坂東三津五郎が、「若いお客さんにも気軽に足を運んでもらえるように、開演時間も工夫し、一回の上演時間を短く、料金も安く」という内容で始めたもので、今や真夏の風物詩としてすっかり定着しました。

江戸時代から、真夏は大物の役者は休みを取って保養などに出かけ、その間に若い役者が存分に腕を奮って勉強する、という俗に「夏芝居」と呼ばれる習慣がありました。これを、現代の感覚で上演しているのが八月の三部制公演です。

開演時間も第一部が11:00、第二部が2:40、第三部が6:15。各回がふだんの4時間前後から3時間弱に設定され、料金も各等級が1,000円から3,000円安く設定されています。確かに、6:15開演であれば、少し仕事を早めに切り上げ、終わった後で感想を語り合いながら生ビールを傾けるにも丁度いいですね。

さて、八月公演の顔ぶれは、父の想いを継ぐ中村勘九郎、七之助の兄弟、中村橋之助、中村橋之助、中村児太郎らが精いっぱいに汗を流し、時代物の名作、舞踊、明治以降に創られた新歌舞伎などに挑戦します。

一座の中でも兄貴分の橋之助が第二部で演じる『ひらかな盛衰記―逆櫓―』。最初は船頭でいながら、実は樋口次郎兼光という武将だった正体を現わす難しい役です。歌舞伎には、こうした「○○実は××」という設定が多く、前半と後半で役の印象がガラリと変わります。それをいかに不自然ではなく見せるか。最近、富みに演技が充実して来た橋之助の腕の見せどころでしょう。

伝説の名工・左甚五郎が彫った人形は動いたと言いますが、それを踊りにしたのが、その後に続く『京人形』。名工・甚五郎を勘九郎が、京人形の精を七之助が踊ります。最近、逞しさを増した勘九郎と、より繊細な美しさを見せるようになった七之助の兄弟が見せる舞踊の世界。二部はいわば「古典歌舞伎」の時代物と舞踊がたっぷり味わえます。

第一部、第三部では、「十世坂東三津五郎に捧ぐ」舞踊が二本。第一部では『棒しばり』、第三部では『芋掘長者』。いずれも、遺児の坂東巳之助を中心に、舞踊の名手であった父を偲びます。こうした演目が上演されるのも歌舞伎ならではの発想で、「今はまだ亡父には及びませんが、その芸をきちんと継承します」という決意を観客に見せるのです。

こうして若手が研鑽に励むのは何よりですが、ただ一点、気を付けなければいけないのは、いきなり「自分流」に崩さないことでしょう。まずは、自分が習った、あるいは目標とするお手本通りにキチンと演じられるかどうか。書道で言えば「楷書」に当たる芸です。これが出来て初めて、自分流に工夫を加え、新たな物を生み出す段階に入ります。最近、この楷書を学び切らないうちに「自分流」にしてしまう役者もちらほら見えます。その気持ちはよく判りますが、そこで耐えられるかどうか、も芸の充実につながるのではないでしょうか。

もちろん、古ければ何でも良い、と言うつもりはありません。しかし、新しいこともまた同様です。最も先を行くものは、最も古びるのが早くなります。そうならずに生きている歌舞伎の息吹をどう捉え、お客様に感じていただくか。これからを担う若手だけに、その責任も重く、名優のような巧い芝居よりも、若手らしさを持った、未熟でも骨格がキチンとした芸を見せてほしいものです。


会場:歌舞伎座 (東京都)
平成27年8月6日(木)~28日(金)


第一部午前11時~
一、おちくぼ物語(おちくぼものがたり)
二、十世坂東三津五郎に捧ぐ 棒しばり(ぼうしばり)

第二部午後2時40分~
一、ひらかな盛衰記(ひらかなせいすいき) 逆櫓
二、銘作左小刀 京人形(きょうにんぎょう)

第三部午後6時15分~
一、十世坂東三津五郎に捧ぐ 掘長者(いもほりちょうじゃ)
二、祇園恋づくし(ぎおんこいづくし)


出演
中村扇雀/中村橋之助/坂東彌十郎/中村勘九郎/中村七之助/ほか


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