歌舞伎役者さんて、結構長い科白(せりふ)があるけど、つい忘れたりしないのかな?

おや? 誰かが科白を忘れたのですか?

結論を先に言います。どんな名優でも、科白を忘れることはありますよ。録音した物を再生しているわけではなく、生身の人間ですから。

しかし、舞台をよく注意してみると、主な登場人物の細かい用事を足す真っ黒な恰好の「黒子」(くろこ)がいますね。歌舞伎では、あの人は「見えない」というルールになっています。

「黒子」は、小道具を渡したり、衣裳の乱れを直したり、時には汗を拭いたりと、たくさん仕事があるのですが、場合によっては科白を忘れたらすぐに科白を小声で教える「プロンプター」の役目も果たします。

時としては、客席から見えないように衝立(ついたて)や襖の陰に隠れていたり、観客に聞こえないように、しかもはっきりと役者には伝わるように、となかなか苦労の多い仕事なんですよ。

昔は、初日が開いてから三日間は、黒子に科白を教えてもらうのを許す、暗黙の了解が舞台にも客席にもありました。今は、皆さんよく覚えていますね。

もう時効ですが、今から30年近く前のこと、ある名優が舞台でうまく科白が出て来ませんでした。陰から一生懸命に科白を教えているのですが、本人に聞こえる前に、客席に聞こえてしまい、しばらくの間、時差のあるステレオ放送のように科白が聴こえて来て、客席も笑ってしまいました。

「舞台には魔物が棲む」と言われます。科白を忘れる事は大変な事ですが、もっといろいろな事件が起きるのですよ。それはいずれ、またの機会に。


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