ようやく本領を発揮! 平岡裕太郎コラム『歌舞伎への提言』第六話

いくら私が天才の誉れが高くても、あ、ごめんなさい、冒頭から嘘ついてしまった。それはさておき、素人の私が毎回提言できるほど、歌舞伎は大変なことになっているのだろうか。この基本的な問題を三日ほど布団の中で考えていたのだが、今まで私がつらつらと述べてきたことは、もしかすると「専門家」の人々はとっくに気付いているのではなかろうか…。となると、この連載は、中村氏の罠だったのだ。これに、連載早くも6回目で気づく辺り、私は自分が恐ろしい。

しかし、「裏の裏は表」であり、中村氏の罠にはまったと見せかけ、誰も気付かないような素晴らしい提言をできたら凄いのだ。つまり、ようやく私の本領を発揮する時が来たのだ。

かなり大胆な提言である。歌舞伎座では毎月歌舞伎を上演している。他にもあっちこっちでやっている。これは「荷重労働」ではないのか。私などは、スーパーで米と牛乳を買っただけで、家に帰った途端にぐったりするのだ。それを、25日間も休まずに毎月歌舞伎を上演するのは、一日にスーパーへ二度行くよりも遥かに大変なことは容易に想像がつく。

ならば、二ヶ月か三ヶ月に一回、歌舞伎の公演をすれば良いのではなかろうか。そうすれば、休養も取れるし、新しい作品にも挑戦できる。充分な稽古期間を取って、新作を「どうだ!」と言わんばかりの勢いで見せることもでき、かえって違った活気が生まれるのではないか。

この「逆転の発想」の裏には、実は緻密な計算が隠されているのだ。毎月、6,000円の3階A席で歌舞伎を観ると考えよう。昼夜で12,000円。これを12ヶ月続けると、144,000円という天文学的な金額になる。それに、往復の交通費や食事代などを加えると、ざっと20万円を超える。私が日頃愛用しているアルマーニのスーツとほぼ同じ金額になるではないか。

これを一等席でと考えると、約3倍の60万円になる。私が限りない愛着を持って乗り回している中古の軽自動車に匹敵する金額だ。ここまで読んだ読者は、私のことを単に「せこくて貧乏な物書きの戯言ではないか」と思うかもしれない。あえて反論をしておくが、そんなことはない。私は、コンビニでハーゲンダッツのアイスクリームを買うのだ。賢明な読者は、私が億万長者ではないまでも裕福であることは理解できるだろう。

結局のところ、歌舞伎座の入場料が高いのではないかね。第一回目でも書いたが、一等席の18,000円出せば、バスツアーで2泊3日、お土産付きの温泉旅行に出かけられる金額だ。毎月2泊3日で温泉に出かけていたら、ふやけてしまうではないか。いや、そういう問題ではない。歌舞伎役者の荷重労働と、私の財布への荷重負担を減らすために、少し入場料がまからないものか、という話だ。

私の家の近所の「吉田ベーカリー」では、300円の買い物でスタンプを押してくれ、20個貯まると、食パンを一斤くれる。歌舞伎座のスタンプを10枚集めると一回タダにするとか、誰か考えないのだろうか。勘違いのないように言うが、私は「せこい」のではない。「ケチ」なのだ。中村氏に確認したら、オペラは作品や出演者によるものの、40,000円ぐらいは当たり前だと言う。これでは、年中芝居を観ていたら餓死するに違いない。

つづく…!?


【連載 第一話】平岡裕太郎の『歌舞伎への提言』その1
【連載 第二話】平岡裕太郎の『歌舞伎への提言』その2
【連載 第三話】平岡裕太郎の『歌舞伎への提言』その3
【連載 第四話】平岡裕太郎の『歌舞伎への提言』その4
【連載 第五話】平岡裕太郎の『歌舞伎への提言』その5


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