菅原伝授手習鑑

『菅原伝授手習鑑』(通し上演) 3月歌舞伎座

フランス料理のフルコースを味わうような「これぞ歌舞伎」と言うべき名作! 通し狂言の魅力を存分にご堪能あれ!

学問の神様として有名な菅原道真。受験シーズには大賑わいです。その道真を主人公に、江戸時代に大阪で実際に生まれた三つ子の話題を絡めて、一本のお芝居にしたもの、それが『菅原伝授手習鑑』。「すがわらでんじゅてならいかがみ」と読みます。

これは、『仮名手本忠臣蔵』、『義経千本桜』と共に、歌舞伎の「三大名作」と呼ばれている作品です。今回は最初から最後までの主な場面を上演する、「通し狂言」と言われる上演方法で、昼の部・夜の部と一日を掛けて一本の長いお芝居を上演します。

片岡仁左衛門、中村魁春、市川左團次らのベテランを筆頭に、尾上菊之助、片岡愛之助、市川染五郎、尾上松緑、片岡孝太郎らの花形を揃え、「時代物」という分野の大作の上演です。

中でも、昼の部の終わりの『道明寺』(どうみょうじ)の場面は、片岡家の当たり芸の一つで、当代の仁左衛門、父、祖父と受け継がれているものです。史実での菅原道真は、お芝居の中では菅丞相(かん・しょうじょう)という名前で描かれています。政敵の藤原時平に陥れられ、太宰府へ配流されてしまう菅丞相。その親子の別れ、そして、丞相に仕える三つ子の兄弟、梅王丸、松王丸、桜丸。中でも松王丸は、心ならずも敵方に仕えています。しかし、本心を表わすために見せた行動とは…。

いくつもの人間関係が錯綜する中で、「忠義」「恩愛」「情愛」などが散りばめられたお芝居です。それぞれの場面に見所があり、言わばフランス料理のフルコースを味わうような、「これぞ歌舞伎」と言うべき名作です。

仁左衛門が演じる菅丞相は、歌舞伎の数ある役の中でも「難役」とされているものです。「難しい役」はたくさんありますが、菅丞相の難しさは、「動きが少ないこと」。次に、「少ないセリフで、その想いを伝えること」「のちに、神様と敬われる人柄や品格を示すこと」です。特に『道明寺』は、一幕約2時間という大作で、その中で緊張感をいかに持続するかも大変でしょう。現代風に言えば、「心理劇」の側面も…。

その一方、親子の情愛と忠義のはざまに悩む松王丸と、菅丞相の書道の弟子だった武部源蔵が対決し、互いに思惑を悟られぬようにしながらも、キーポイントになる子役が大きな役割を果たす『寺子屋』、三つ子の兄弟が、劇画的とも言える歌舞伎の「荒事」(あらごと)を見せ、ストーリーよりも躍動感のあるビジュアルで見せる『車引』など、さまざまな味わいに富んだ場面が見られるのが、「通し狂言」の魅力でもあります。

ベテラン陣の滋味豊かな芸に、花形たちが時分の花や若々しいエネルギーでぶつかり合う舞台も、歌舞伎ならでは、と言えるでしょう。歌舞伎の芸が長年継承され続けて来たのは、こういう舞台の上で、年齢に関係なく真剣勝負をし、先輩の芸を「盗む」ことを重ね、成長を重ねて来た役者たちの苦闘の跡、とも言えますね。

「歌舞伎ビギナー」には多少難しいお芝居かもしれません。しかし、最初から全部わかってしまったらつまらないもの。何よりも、そうしょっちゅう通して上演されるものではないだけに、今回は貴重なチャンスかもしれまぜんぞ!


松竹創業120周年
三月大歌舞伎
平成27年3月3日(火)~27日(金)
昼の部 午前11時~
夜の部 午後4時30分~

2月12日(木)10:00よりチケット発売予定


出演: 片岡仁左衛門/片岡孝太郎/市川染五郎/尾上松緑/尾上菊之助/片岡愛之助 ほか


演目
■昼の部
通し狂言 菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)
序 幕 加茂堤(かもづつみ)
二幕目 筆法伝授(ひっぽうでんじゅ)
三幕目 道明寺(どうみょうじ)

■夜の部
通し狂言 菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)
四幕目 車引(くるまびき)
五幕目 賀の祝(がのいわい)
六幕目 寺子屋(てらこや)寺入りよりいろは送りまで



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