五月の「團菊祭」というのは、明治の歌舞伎界に大きな足跡を遺した九代目・市川團十郎と五代目・尾上菊五郎の功績を偲び、催される興行です。
当然ながら、團十郎家、菊五郎家に由縁の深い役者を中心に行われますが、もう誰も知らない役者のことを顕彰し続ける公演の意味を、松竹もそろそろ考える必要があるのかもしれませんね。
役者の層が厚く、豪華なメンバーが並ぶ月もあれば、さほどではない月もあります。今のように、一ヶ月にいくつもの劇場で歌舞伎を上演している状態だと、どうしても役者が手薄になることがあります。歌舞伎では、こうした芝居を「無人(ぶにん)芝居」と呼びますが、五月の「團菊祭」は、それに近いかもしれません。
先月ご好評をいただいたので、初心者でも大丈夫なものは「★」、ある程度知識のある方は「★★」、見慣れた方は「★★★」で、それぞれの演目についてお知らせしましょう。
昼の部
『摂州合邦辻』★
武士の家へ嫁いだ玉手御前が、先妻の子・俊徳丸に惚れてしまいます。人の道理にはずれた事をした娘が帰った実家で、父の合邦は怒り狂います。しかし、そこには玉手御前の深い計算が…。若い菊之助に、中年女性の色気がどこまで出せるか、大役に挑戦ですね。
『天一坊大岡政談』★
「将軍のご落胤」と名乗って、天下を偽る大泥棒の天一坊を巡る騒動です。昼の部は菊之助大活躍で、こちらは通し狂言の主役。全五幕の長編ですが、幕末の雰囲気が気軽に味わえる作品です。テレビでお馴染みの「大岡越前」も登場します。さて、どんな裁きがくだるのでしょうか。
夜の部
『慶安太平記』★
五月は河竹黙阿弥作品が多いですね。これは、「世話物」を得意とする尾上菊五郎家の特徴でしょうか。
コツコツ真面目に働く主人公の丸橋忠弥。ある光景を見て、自分の生き方を変える決意をします。どのように変えようとしたのでしょうか天。松緑には意欲的に取り組んで、後には当たり役にしてほしい作品です。
『歌舞伎十八番の内 蛇柳』?
申し訳ありません。歌舞伎十八番の内、江戸時代からの「確定台本」として残っているものは少なく、この『蛇柳』も、確定台本ではありません。
従って、観る前に私見で予断を与えることはできません。悪しからずご了承ください。
『め組の喧嘩』★
これも黙阿弥です。実際に起きた「町火消し」と「相撲取り」の喧嘩を、舞台化したもので、気楽に見られる芝居です。菊五郎のめ組の辰五郎と時蔵のお仲の夫婦愛もみどころの一つでしょう。
総体的に、もう少し演目に工夫がほしい並べ方ですね。
4月12日(日)よりチケット発売です。
歌舞伎座
松竹創業120周年 團菊祭五月大歌舞伎
平成27年5月2日(土)~26日(火)
4月12日(日)よりチケット発売
昼の部
摂州合邦辻/通し狂言「天一坊大岡政談」
[出演]尾上菊之助 / 中村梅枝 / 尾上右近 / 坂東巳之助 / 中村歌六 / 中村東蔵 / 尾上菊五郎 / 尾上松緑 / 市川海老蔵 / 中村時蔵
夜の部
慶安太平記/歌舞伎十八番の内「蛇柳」/神明恵和合取組
[出演]尾上松緑 / 中村梅枝 / 尾上菊之助 / 市川海老蔵 / 尾上菊五郎 / 中村時蔵 / 中村又五郎 / 坂東彦三郎 / 市川左團次 / 中村梅玉